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プロペラ後流について(まとめ) [MU-2]

先に紹介したSolitaire (MU-2B-26A) の左旋回中
https://youtu.be/_GeH4DlAWuQ?list=PL8rNPnvH5eXjaWDnuevH2LF1tRdbnorqs
の不可解な操舵(左旋回中に操縦輪を大きく右にきったまま保持している)が、プロペラ後流の影響によるものであろうとの仮説を検証するため、しばらくプロペラ後流について調べていました。

調査の経緯も為になることが多かったのですが、解説が冗長になっても逆に解り難くなりそうなので、まずは現時点で自分なりに理解した要点を以下に紹介しておきたいと思います。個々の詳細については、おいおい解説してゆく予定です。

まず、自分の語彙では「プロペラ後流」という表現しかできなかった現象は、専門用語として【Slipstream】と呼ばれていることを知りました。(以下、箇条書き・体言止めで要点を記載)

【Slipstream】にはAccelerated SlipstreamとSpiraling Slipstreamがある
・Accelerated Slipstreamはプロペラ後流のプロペラ軸方向の流れで、機体の推進力となるもの
・Spiraling Slipstreamはプロペラ後流の旋回成分、プロペラに「引きずられる」ことによって発生したプロペラ回転方向と同じ向きに旋回する流れで、Slipstream(円筒状のプロペラ後流)の内側に拘束されたまま後方に流れた先(主翼、胴体、尾翼まわり)で、機体に「悪さ」をするもの、旋回の程度はSwirl Angleとして表示されることが多い

Spiraling Slipstreamは、プロペラ先端からたなびくPropeller Tip Vortex (Vortices)
https://en.wikipedia.org/wiki/File:DehavillandCC-115Buffalo12.JPG
としばしば混同される
・Propeller Tip VortexはSpiraling Slipstream そのものではない
・Propeller Tip VortexはSpiraling Slipstream と周辺大気との「境界面」に発生する渦
・Propeller Tip VortexはSpiraling Slipstream とで「螺旋の向き」が逆になる
・Propeller Tip Vortexの発生原理は主翼に発生する翼端渦と同じ


【Slipstreamの主翼への影響】
・Accelerated Slipstream は Slipstream に晒された主翼の局所揚力を増す
・Spiraling Slipstream はプロペラの左右で主翼の「局所迎え角を増減」→「局所揚力が増減」→「Roll方向のモーメントを発生」する←本記事冒頭の Solitaire (MU-2V-26A) の不可解な挙動の主因はこれでした(フラップ下げでこの効果が強くなるのは「フラップダウン」→「ノーズダウン」→「P-factor」→「左ロール(プロペラ回転:後視CCW)」の構図)


【単発機の場合】左右に係わる特性の記述は、プロペラ回転方向が後視CWのケース
・主翼により偏向された Spiraling Slipstream は胴体を回らない(回りこめない!)
・垂直尾翼の左側に Spiraling Slipstream の「正圧」は作用しない(回りこめないので)
https://www.youtube.com/watch?v=8YrtxI17HNY
この↑動画のように高翼機の場合でも、主翼の吹き降ろしが「エアカーテン」となって回り込めないようです

・・高翼機の場合、主翼上面で Spiraling Slipstream は右横向き(スパン方向)に偏向・加速→ Accelerated Slipstream として垂直尾翼右側へ「吹き抜ける」→垂直尾翼の右側に「負圧」として作用→左Yaw

・・低翼機の場合、主翼の影響を受け難い 9:00 辺りから 12:00 辺りの位相(プロペラ回転面)を源流とする Spiraling Slipstream が垂直尾翼の右側を「吹き抜ける」ことによる作用(高翼機と同じ)に加えて、胴体右舷と右主翼のコーナーに「吹き寄せられ」行き場を失った Spiraling Slipstream が後方へ偏向・加速される事から、左舷に比較して右舷の静圧が下がり、胴体にも右向きの力が作用し左への Yawing 傾向が高翼機より強く出ることが推察される
https://pixers.us/wall-murals/propeller-airplane-with-smoke-18561622
この↑画像の smoke の渦は Spiraling Slipstream が主翼付け根で「偏向・加速」された事を示す


【双発機の場合】
・Spiraling Slipstream は主翼で上下に分断される
・主翼で上下に分断された Spiraling Slipstream は「プロペラの中心寄りのエンジンナセルに沿う流れ」と「Slipstream 左右の端寄りの流れ」が主翼後縁で合流する際に3つの小さな渦を発生し、その回転方向と強さは主翼後縁で合流する際のベクトルのギャップに左右される
https://www.syracuse.com/news/index.ssf/2011/08/oswego_county_will_spray_to_he.html


【4発機の場合】
・Spiraling Slipstream は主翼との干渉により様々な影響が発生する

・・主翼上面の流れの例
高翼機の場合、後視CWで右側への偏向が顕著になる→PS-1, US-1で「左傾左旋回」傾向
https://www.airliners.net/photo/UK-Air-Force/Lockheed-Martin-C-130J-30-Hercules-C4-L-382/376950
リンク先の画像はC-130Jです

・・主翼下面の流れの例(動画の途中に出てくる解説図が判り易い!)
https://www.youtube.com/watch?v=6HcmwT-s_8Q
No.4エンジン(右端)のプロペラからの Spiraring Slipstream が再生されて長く残っているように見えるのは、主翼の翼端渦によるものです(No.1エンジン後流の渦は逆向き)

以上
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MU-2 プロペラ後流の影響(新たな仮説) [MU-2]

久しぶりの投稿です。今回、画像の直接貼り付けが無くて見栄えが悪いですが、その分リンクを充実したのであしからず。

用語のおさらい
後視:進行方向に向かって
CW:時計回り
CCW:反時計回り

先に紹介した”左旋回中に操舵輪を右にきったまま”の動画
https://youtu.be/_GeH4DlAWuQ
で、この機体:D-IAHT
http://www.flickriver.com/photos/tags/diaht/interesting/
のプロペラ回転方向が「後視CCW」であったことから、「プロペラ後流による主翼上面の加速域の偏りにより左右主翼の揚力差が発生する」という先の仮説による揚力差とは”逆方向”にロールさせる力が作用していたことが判明しました。尚、この動画紹介の投稿当初は横滑りしているかどうか不明でしたが、右席の操舵輪の軸が計器パネルを貫通する孔の右に位置する、Turn Coordinator
https://www.google.co.jp/search?q=turn+coordinator&tbm=isch&ved=2ahUKEwjQ4bGshfbdAhVXxWEKHUffCmwQ2-cCegQIABAC&oq=turn+coordinator&gs_l=mobile-gws-wiz-img.3..35i39j0j0i30l3.22924.24057..27689...0.0..0.92.508.6......0....1.........0i19.SIJS2Ie3K58&ei=pOG6W9D_LteKhwPHvqvgBg&client=safari&prmd=isvn&biw=768&bih=922&hl=ja-jp
が時々見えるタイミングでは釣り合い旋回出来ている事が判りました。

これまで「後視CW」で回転するプロペラを有するPS-1やUS-1で問題となった「左傾左旋」注1
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/101/touh/t101024.htm
と同様な事象がMU-2(初期のタイプは後視CW)にも発生しているという仮説を前提としていたのですが、この動画の機体(D-IAHT)では「後視CCW」で機体が「左傾」する特性に対して当て舵(操舵輪を右にきること)によって姿勢保持していたのです。

そこで今回は「左旋」の部分はさておき、MU-2の「左傾」について以下に見直しました。

PS-1やUS-1では「後視CW」のプロペラ後流による主翼上面流れの加速域の右舷側への偏りが、特に低速時に顕著となり、その結果左右主翼の揚力バランスが崩れ「左傾」するというものでした。US-2ではこれを解消するためプロペラ軸を3°程度右に傾け、いわゆるサイドスラストを発生させています。近くから観ても判り難いですが望遠で撮影されたUS-2の正面からの映像を観るとよく判ります。以下のページの2つ目の写真は正面よりやや右舷側からの映像ですが、左舷外側の1番エンジンポッドがカメラに正対しているのが判ります。
https://blogs.yahoo.co.jp/hiroki_h2/41854397.html

どうやら”旋回中のMU-2”では、US-1(主翼上面の加速域の偏り)とは別の現象、しかも「一般的な?Pファクターによる作用と逆方向」でありプロペラの反動トルクをも打ち消してロールさせる何かが優位に作用しているようなのです。

【仮説1】プロペラ後流による主翼下面の加速域分布の偏りの影響
これは単に「後視CW」でなく「後視CCW」だったので「主翼上面」ではなく「主翼下面」での現象が優位に現れるという発想です。プロペラ後方に位置するフラップはプロペラ後流を下方に偏向する効果もあるので、特にフラップ下げ時に効く可能性はあり、機速が落ちる旋回中に顕著になると言えそうです。

【仮説2】プロペラ後流による主翼迎え角の分布の偏りの影響
「後視CCW」のMU-2ではプロペラ軸の左側で主翼に対する吹き降ろしがあり、右側で主翼に対して吹き上げがあることから、特に高出力の時に「左傾」が顕著になるという理屈です。この仮説で水平飛行から旋回に入った際に機速が落ちて影響が顕著になることも説明できそうです。

いずれにせよ、MU-2のように主翼スパンに対するプロペラ直径の比がある程度大きな形態では、プロペラ後流による主翼揚力への影響が複雑になり、その分布の偏り方が変わってくるようです。MU-2と同様に主翼スパンの割に大きなプロペラが左右同方向に回転するOV-1
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Grumman_OV-1_Mohawk#/media/File%3AOV1.890InFlightStanleyCounty_(modified).jpg
の特性がどうだったのか気になるところです。垂直尾翼をわざわざ3枚にしたのは、片肺飛行の際に生き残ったエンジンのプロペラ後流を受けられる位置に、方向舵を置くためと考えられます。

ちなみに、MU-2は当初、プロペラ後流の主翼への影響を極力抑えるべくエンジンポッドを主翼から吊り下げる形態で配置しプロペラ軸は主翼からかなり離れていました。次のリンク先の「機体」の項目の最初の画像が初期形態です。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/MU-2#/media/
ところがプロペラ直径(エンジン出力)の増加によりプロペラ軸は主翼に接近することとなり、プロペラ後流による主翼への影響が大きくなった事は明らかです。
https://goo.gl/images/8q1osW

注記1:これまで「左旋左傾」と紹介してきましたが「左傾左旋」が正しいようです。元の表現は「左傾左旋回傾向」です。
https://www.engineer.or.jp/dept/mech/record/resume/resume2005/resume0507-2.pdf

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MU-2のスポイラの効き [MU-2]

「三菱双発ターボプロップ多用途機 MU-2」池田研爾
航空学会誌 第13巻 第143号 (1965年12月) p16-24

のp20に掲載されている「スポイラの効き」を示す図について考察してみました。
スポイラの効き.jpg
本文献の本文には「ダ輪角(ハンドル角)に対し直線性も十分である」とありますが、左側への操舵では右側に比べ、この図の左下の領域における「効き」具合のバラつきが明らかに大きいです。

この図の左下の領域は操舵角が大きくなる低速飛行時に相当することから、失速条件に近づいてスポイラの「効き」が不安定になっているものと解釈できます。

このバラつきの左右差はプロペラ後流の影響によって、右翼のスポイラがプロペラ後流の影響をより強く受け、スポイラを乗り越える流速が左翼より高めに安定している為であると考えられます。

なお、この文献が執筆された当時の初期モデルは、プロペラの回転方向が後視CW(進行方向に向かって時計回り)であったことから、主翼上面におけるプロペラ後流は左舷側から右舷側への横向き成分を持つという前提としています。
主翼上面プロペラ後流.jpg
黄色矢印がプロペラ後流の境界イメージ、主翼上面の赤色と青色ラインがスポイラで、赤色がプロペラ後流の影響を受ける区間(イメージ)
出典:以下の掲載写真に加筆
http://www.mod.go.jp/asdf/arw/syuyousoubi/MU-2A.html

後の4枚プロペラのモデルでは後視CCWとなっているので、初期モデルの左右差(癖)のあるロール操舵を習得したパイロットが逆回転のモデルに乗り換えた時期に、事故が多発したのでないかと想像します。

第9図の結果だけみれば、プロペラ後流の影響下にスポイラを置いた方が「効き」が安定して一見よさそうにも思えますが、むしろ、これは逆にプロペラ後流の影響がなくなった時、すなわちエンジン停止(あるいはパワーダウン)時にそれまで安定していた「効き」が不安定になってしまうという点で、好ましくない特性であると考えるべきでしょう。

ちなみに、双発以上のプロペラ多発機の場合、製造コストと整備コストの低減を優先して左右(全て)のエンジン(およびプロペラ)を同じもの(同方向回転)にすることが多いですが、軍用機では飛行中の機軸を安定させることを優先して左右のプロペラ回転を逆にした双発機があり、WWⅡではP-38、戦後の機体ではOV-10などが有名どころでしょう。

ところで、左右同方向回転のプロペラ双発機の場合、OEI(片発エンジン停止)の際にPファクターの影響がよりクリティカルになる臨界発動機(Critical Engine)が定義されますが、左右逆回転の双発機はPファクターを抑える方向に回転させているものだと思い込んでいました。

OV-10では右側が後視CCW、左側が後視CWで、Pファクターの影響を抑える方向です。
OV-10.jpg
出典:
https://www.pprune.org/4693945-post15.html

これに対して、P-38ではPファクターが助長される方向で、右側が後視CW、左側が後視CCWとなっています。
P-38.jpg
出典:
http://475th.org/p-38/about-the-p38
P-38の場合はPファクターの抑制よりも翼端失速を抑制する(低速時にプロペラ後流の吹きおろしによって翼端側の迎え角を抑える)ことを優先したのではないかと思われます。

OV-10、P-38は、共にエンジンナセルを延長した双胴に小さ目の垂直尾翼を配置したスタイルで、ロールコントロールはAileronによります。OV-10については高翼で上反角ゼロである点がMU-2と同じ形態であることから、OV-10の特性が判ったらいずれ比較してみたいと思います。

双発でも胴体の前後にプロペラを配置したO-2という機体は、前後のプロペラを逆回転(エンジンは前後逆配置なので基本同じものが使える)とし、Pファクターをキャンセルするという興味深いスタイルでした。
O-2.jpg
出典:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cessna_Skymaster_O-2_5.jpg

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MU-2 がSpoileronを採用するきっかけとなった実用機 [MU-2]

「三菱双発ターボプロップ多用途機 MU-2」池田研爾
航空学会誌 第13巻 第143号 (1965年12月) p16-24

のp20に
(1965年当時)「世界で横操縦にスポイラだけを利用した実用機としては、アメリカのグラマン社製艦上戦闘機F-11F、 ノース・アメリカン社製のマッハ2.0艦上爆撃機“ビジランティ”、現在(当時)開発中の海空共通のマッハ2.5の可変翼戦闘機F-111の3機種しか聞いておらず、その詳細も不明である」
とあったので、F-11F“Tiger”, A-5“Vigilante”, F-111“Aardvark” のSpoilerがどんなものであったか調べてみました。

F-11F “Tiger”のSpoilerが開いている写真をみつけきらなかったので、とりあえずF-11が採用されていた時代のBlue Angelsの動画を紹介します。
出典:
https://www.youtube.com/watch?time_continue=598&v=Sf4MvIHChz0
 0:35辺りから左ロール中に左Spoilerが開いているのが判ります
 3:30辺りから背面からの左ロール機動後半の一瞬ですが、Spoiler展開中にフラップ付け根前方に翼の上下面を通じる「窓」が開くのが確認できます。また注意深く観察すると背面から左ロール操作に入る直前に機首上げ(背面なのでcontrol stick push)しており、これはロール終盤でSpoiler作動に伴う高度ロスを見込んでのことだと思います
 4:15辺りから着陸前の左ロール操作で高度がガクンと落ちているのが判ります
 6:25辺りから駐機中の2番機の右翼Spoilerが展開しているのが確認されます
 9:35辺りからの連続ロールに入る前にピッチアップしているにもかかわらず、連続ロール後半で高度が急激に低下しており、Spoileron最大の欠点を明示したシーンといえましょう
とは言え、F-11は密集編隊飛行可能だけのきめ細かな操舵特性と、キレのあるロール機動を可能とするSpoileronシステムを成功させた機体と言えそうです。

A-5 “Vigilante”のSpoiler(Aileron上げ相当)はDeflectorとセットで作動して翼の上下面を貫く「窓」を開けて、翼下面の気流をSpoilerの背面に導き出しています。さらには、反対側の翼にあるUp-Going Wing(Aileron下げ相当)と同期作動してroll (lateral) controlするというかなり凝った構造となっています。
A3J_Lateral_Control_System.jpg
出典:
http://tailspintopics.blogspot.jp/2010/12/vigilante.html
以下の写真では、Spoilerの外舷側のUp-Going WingのDeflectorが同時に開いているのが判ります。左右両翼のSpoilerとUp-Going Wingを同時に展開することでSpeed Brakeとして作用させているそうです。
RA-5_Spoileron.jpg
出典:
https://www.zona-militar.com/foros/threads/aviones-especializados.23364/page-4#post-957517

F-111 “Aardvark”のSpoilerはMU-2と同じく展開するとヒンジ近くで翼上面との間に隙間ができるタイプですが、MU-2のそれに比べるとかなり大きい(翼弦が長い)です。
F-111_Spoileron.jpg
出典:以下のリンク先を2/5くらいスクロールした辺りに掲載されている画像
https://bayourenaissanceman.blogspot.jp/2010/11/weekend-wings-37-f-111-aardvark-part-1.html

次の写真から、ダブル・スロッテッド・フラップの様子がよく判り、Spoilerを展開してできるフラップ前方の「窓」から翼下面の気流がSpoiler背面に抜ける構造はF-11, A-5と同様です。
F-111_Flap.jpg
出典:
https://en.wikipedia.org/wiki/File:F-111_with_Durandal.jpg

が、いずれも機速の早いジェット機で、しかも多様な形態でありその特性も不明であったことから、MU-2でSpoileron採用可否を判断する先例とはならなかったようです。

以上F-11, A-5, F-111の3機種のSpoilerに共通するのは、Spoiler背面に翼下面の気流を導いている事で、これによりSpoiler後流に大きな剥離を生じることなく、(主翼後縁において気流の吹き出し角?を偏向させるAileronの代わりに)Spoilerとその背面付け根に開く「窓」によって主翼翼弦の途中で主翼下面から上面に偏向する流れを発生させていることから、主翼上面の剥離によって揚力を減ずるMU-2のSpoiler (Spoileron)とは全く別物と言えるでしょう。

MHIがMU-2にSpoileronが採用できるかどうか検討していた当時、研究開発されていた「X1G1高揚力研究機」
http://www.aero.or.jp/isan/heritage/aviation-heritage-X1G1B-detail.htm
の記事をみると、
「フル・スパン・フラップとスポイラーを装備した新設計の主翼を装備した機体にX1G1という名称を与え、1957(昭和32)年から飛行試験を始め有効性を確認した。(中略)本機での実験により得られた知見と技術は、C-1輸送機、PS-1飛行艇、MU-2ビジネス機に活用された」
とあることから、MU-2はこの機体でのスポイラー特性を参考にSpoileronの採用を決めたようです。
X-1G_Spoiler.jpg
http://dansa.minim.ne.jp/AH-1958-X1G.htm
この写真と違う形態での試験が行われたかどうかは不明ですが、このSpoilerはMU-2の背の低いスポイラーに比べると、コード(翼弦)長の大きい、どちらかというとF-4と同様なスプリットフラップ形式のSpoilerです。しかもプロペラ後流の影響を受ける主翼付け根あたりを外した配置であることもMU-2とは事情が異なります。

当然のことながら、MHIではMU-2の模型風洞試験によりスポイラー特性を取得していますが、先の出典に掲載されている写真(図8 失速気流試験の一例)を見る限り、肝心のプロペラ後流の影響は考慮されていません。

「失速が問題となる低速時には当然、プロペラ後流の横向き成分が大」
きくなり、しかも
「左翼は外舷から内舷寄り、右翼は内舷から外舷寄りの斜めの流れが発生」
する中、さらには、Spoileron内舷側の端がエンジンナセル内舷とほぼ同じことから、
「左翼のスポイラーよりも右翼のスポイラーの方が、プロペラ後流の影響が大」
きいし、もっと突っ込めば、スポイラーのヒンジラインが外舷にかけて前進しているので、
「左翼のスポイラーは右翼のスポイラーに比べて、より斜めの気流を受ける」
ことになる

つまり、プロペラ後流の横向き成分がSpoileronに及ぼす影響によって、左ロールと右ロールで特性が違ってくるはずですし、スポイラーにあたる気流の斜め具合が機速とエンジン出力によっても変化する分、ロール特性(舵の効き)もかなり変わってしまうのではないかということです。

先に【情報求む】として問うた
「プロペラ後流の影響を受けるエリアにSpoileronを配置した例」
は、あり得ないというか、そもそも、そんなところにSpoileronをおいてはいけなかったと思うのです。

つづく

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MU-2 の上反角効果について:更なる疑惑 [MU-2]

MU-2 のプラモを眺めていて、また新たな疑惑が
7ED48360-6A33-4B70-B822-37DCD32AC12B.jpeg

「MU-2 に採用した上反角効果調節フィンについて」
日本航空宇宙学会誌 第22巻 第247号 (1974年8月)p33-36
によると、チップタンクにも上(下)反角効果が作用するとのことであるが、
疑問①
よりボリュームのあるエンジンポッドによる上反角効果は考慮しないの?
疑問②
①以前の問題としてエンジンポッド周りのプロペラ後流(旋回流)の影響はどうなの?
疑問③
エンジンポッド内側すなわち翼胴接合部でのプロペラ後流の影響は無視できないはずでは?

素直に考えてみると・・・
プロペラ回転方向が後視CWの場合
→左翼胴体接合部迎角<右翼胴体接合部迎角
言い換えると、同方向プロペラ回転双発機の場合はPファクターを助長する方向に作用し
→上反角効果は横滑りの方向によって大きく異なる
という結論に至ってしまうのです。

さらには
高翼配置による上反角効果は
→主翼前方の「胴体長さ」によって異なるはずで
→主翼前方の胴体が短いMU-2では、翼胴干渉による上反角効果は理論値より小さくなる

ここまで疑問が膨らむと、
エンジンポッドとプロペラ後流がない次の図(出典:上記)も
2F08F8EC-C311-441B-BCDA-E66022F30F7F.jpeg

この断面の先にはイルカの頭のような機首しかない以下の図(出典:上記)も
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いずれも、絵に描いた餅にしか見えなくなってしまいました。

因みに
「胴体長さ」で思い出したのは、木村秀政先生が、戦前(昭和16年11月)に自身の講演で、山名正夫先生の螺旋不安定にまつわる評価式の追認試験に対してケチをつけていたという事を以下の論文で知りました。

「垂直尾翼容積と螺旋不安定度」
日本航空学会誌 昭和17年1月 第9巻 第81号 p32-36

この論文を斜め読みした限りでは、当時、木村氏が理論研究、山名氏が実証研究をベースに活動してたのかなと想像しました。理論派 vs 実証派 の構図です。

戦後、木村氏はYS-11の開発で設計顧問的な立場で関与してたようですが、螺旋不安定の大家?木村氏の理論
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を持ってしてもYS-11の螺旋不安定は見抜けなかったのは、残念なことです。

木村先生と山名先生の確執は、柳田邦男氏の「マッハの恐怖」で有名ですが、B727羽田沖墜落事故の調査において、調査委員長であった木村氏の方針が受け入れ難いとして、山名氏が委員を辞退する程のものだったようです。当時の航空機産業界としては、悪者を作らず丸くおさめる委員長としての木村派が多数で、あくまで物証ベースで探究すべきとの山名派が少数だったようです。
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MU-2 Fatal Crash の Fault Tree(仮説) [MU-2]

これまで知りえた情報から MU-2 が Fatal Crash に至る Fault Tree もどきをまとめてみました。
・青色バックの項目は他機種でもあり得る形態・特性
・赤色バックの項目は Fatal Crash の要因と考えられるもの
・黒色バック黄文字は Fatal Crash 主要因の候補
・黒色バック白文字の項目の一連のシーケンスは、そこに陥った MU-2 が脱出困難な流れ
MU-2_FTA.jpg
※1 MU-2 初飛行の1年前に初飛行した YS-11 の実機で容易にスピンに陥りやすことが判り、上反角を増加させる必要に迫られたことから、ほぼ同じ時期に設計した MU-2 でも同様の見積りエラーがあったと考えられる。
※2 MU-2 にはプロペラ回転方向が逆のタイプもあるので「左旋左傾」も「右旋右傾」もあり得る。「左旋左傾」は PS-1, US-1 で問題となった、主翼上面でのプロペラ後流横向き成分が顕著になる低速飛行時の有害なクセ。

ここは明らかに違うとか、これが欠落しているとか、ご意見いただければ幸いです。


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MU-2よもやま話 [MU-2]

これまで MU-2 を悪者扱いする論調で記事を書き進めてきたので、もうウンザリって言う声も聞こえてきそうです。

疑惑の追及は今回お休みして、MU-2 の事がまだ好きだった頃の話題を2件ほど紹介したいと思います。
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これは中学2年の夏休みの理科の自由研究の宿題で作った1/50のペーパーモデルです。
航空情報だったか、航空ファンだかの折り込み図面の縮尺そのままで、印画紙(写真の紙)を材料に木工用ボンドで貼り合わせ、仕上げはポスターカラーで塗装したものです。
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何の研究なのか?と問われることもなく可もなく不可もなく、宿題の提出物としては認められたように記憶しています。因みに1年の課題ではクマゼミの4/1くらいの拡大模型を針金と石膏を材料に作って、理科の先生に「ハエか?」とからかわれたものの「特別賞」を貰えたのは意外でした。

もともとは、当時現役で活躍してたSL好きだったのですが、小学校5年の時に親父に連れてって貰った航空自衛隊の基地祭で初めて飛行機を間近に見てから、飛行機オタクに転向したのです。初めてMU-2を見たのは中学2年の6月なので、それなりに気に入って「作ってみよう!」と思ったのでしょう。

それからパイロットになりたいという想いから始まり、近視になってから飛行機メーカーに入りたいと考えるようになり、結果的には飛行機メーカーではないけれど、航空機関連メーカーに勤めることとなったのです。今は既にリタイアしているので飛行機メーカーに忖度する必要もなく、勝手な想いを綴っているという次第です。

MHIには学生時代に工場見学機会があって、その時の雰囲気では自分にはKHIの方が性に合っていると思ったものです。以下はその際に名古屋空港に寄って撮ったものです。ネガが見つかったらあらためてフィルムスキャナーにかけてみようと思いますが、保管状態がわるくてカビてるかも。
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正面やや上方から(ゼロ揚力の迎え角は、もう少し下かな?)

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エンジンポッド吊り下げ式は整備性もさることながら、主翼への干渉を出来るだけ回避したいという意図があったはずです。
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最後は垂直尾翼が大きく見えるショット(印象操作に使えるか?)
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懐かしいエアラインの機体も写っています。
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MU-2 の Spoileron の効きについての疑問 [MU-2]

翼の空力専門家ではないので、素人考えのすごく「感覚的なお話」をしたいと思います。

感覚的な話なので、まずはイメージづくりの図を準備しました。
最初の図は「エルロンの原理」の概念図です。
エルロンの原理.jpg
図の縦軸が主翼に作用する揚力で、横軸が補助翼(ここではエルロン)の作動角です。

次の図は、Spoiler を Spoileron として作動させる場合の概念図です。
理想的なスポイロン.jpg
この図では、作動角の増加に伴って揚力の減少がリニアに(理想的に)変化すると想定していますが、実際には Spoiler の作動範囲のどこかで流れが剥離するので、下の図のような非線形な特性を持つのでないでしょうか?
現実的なスポイロン.jpg

以上のイメージをもとに、話を進めます。

Spoileron は Spoiler を Aileron として機能させるものなので、そのロール特性が Spoiler の特性に左右されるのは当然として、MU-2に採用されているタイプの背が低くてスパンの長い Spoiler では、Spoileron の「微妙な」作動角によるきめ細かな流れのコントロールができないような気がするのです。

Spoiler でも背の高い(翼弦長の長い)タイプであれば、スプリットフラップを翼上面に配置したような効果、つまり、小さな作動角での揚力の制御が比較的やり易くなるように思うのです。その点、MU-2 の Spoileron は 翼面流れが剥離するかしないかの「微妙な」作動角では、On/Off 的にしか効かないんじゃないかという疑問です。
1105mitsu_wing.jpg
出典:
https://www.aopa.org/news-and-media/all-news/2011/may/01/mitsubishi-mu-2-addictive-performance

さらに言うと剥離が確立される前の段階で、Spoileron が少しだけ展開したことによって翼厚が増したような効果がでるとすると逆に揚力が増して、逆効きすることがあるんじゃないかと・・・最後の図のように危険なスポイロン.jpg

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Spoiler の基本原理を忘れずに [MU-2]

忘れてはならないのは、Spoilerは飛行機が蓄えていたエネルギー(即ち運動エネルギーand/or位置エネルギー)を「棄てる」装置であるという事です。

Spoilerは滑空比の良いグライダーが早く『高度を下げたり』、着陸時の『ブレーキとして』重用される(必須な?)機構です。Spoileron と呼び方が変わったことによって、MU-2ではその原理特性を忘れてしまったのではないでしょうか?

グライダー以外で、推力重量比の大きな戦闘機ならともかく、余剰推力の小さなMU-2に、エネルギーを捨てる(結果として高度と速度を犠牲にする)装置は採用すべきでなかったと言えるでしょう。MU-2は、離陸後(ポジティブ確認後)直ちに脚上げ・フラップ収納が推奨されるほど、パワーに余裕がない(なかなか加速できない)飛行機なのです。

Spoiler展開→抵抗増大→速度(運動エネルギー)低減

翼面流れ剥離=Lift減少→(両翼作動:Spoiler)→高度(位置エネルギー)低下

(片側作動:Spoileron)

Spoiler 作動側の翼が下がる→(繰り返すと)→高度がどんどん落ちる①
作動側に機首が偏向→(繰り返すと)→速度がどんどん落ちる②↑

さきに紹介したC-17の事故は、短時間に左右に大きくロールをうつような、即ちSpoileron を繰り返し作動させたため、①と②が顕著になり始めたところで、

高度を保つ為に機首をあげる→(パワー余裕なし)→失速→横滑り→スピン→crash③
↓(パワー余裕あり)
水平飛行可能

③の顚末を迎える事となったようです。

B-52の事故は、高度を維持している間は釣り合い旋回出来てたように見えますが、その限界を超えた途端に横滑りを起こし、Spoileron も全く効かないままcrash しています。

C-17もB-52も、元々そんな飛び方を想定した機体ではないので、これらの事故は飛行機の特性(限界)を失念したパイロットのヒューマンエラーが主要因と言えそうです。

少し横道にそれますが、派手なデモフライトで思い出したのは浜松でのE-767の飛び方です。
https://youtu.be/HvR4Ix-WmL0
導入まもない頃、運動エネルギーを位置エネルギーに変えて上昇しながらですが、90°に達する左バンクをうってみせました。

敵のミサイルをかわす訓練として常日頃やってたとしても、ベースが767でしかも背中に余計なものを背負ってる形態で、リスクを伴うマニューバです。B-52の事故の事もあるし、これはNGだろ!と感じました。さすがに、この飛び方に対してお咎めがあったのか、その後は比較的おとなしく飛んでいるようです。

さて、MU-2は航空自衛隊の救難機として29機調達され、そのうち4機が Fatal Accident を発生し16名の犠牲者を出してしまいました。救難ミッションではV-107ヘリコプターとペアを組み、V-107より先に現場に急行し遭難者の捜索などにあたることから、捜索の為に「低速で長時間旋回する」必要がありました。

開発(MHI)、機種選定(航空自衛隊)、最初のFatal Accident の事故調査(防衛庁(当時))、2回目の事故調査、機体損耗率が1割を超えた3回目のcrash のいずれかの段階で、『螺旋不安定』な特性を持つ飛行機を「低速で長時間旋回する」ミッションに充てるべきでない!と進言できる人は現れなかったのでしょうか?

航空自衛隊は4回目の Fatal Accident の事故調査を受けて、ようやく救難機としてのMU-2の早期退役を決断したようです。一方、陸上自衛隊ではその後もMU-2(LR-1)の運用を続けましたが、『螺旋不安定』の特性(欠点)についてどのような議論・考察がなされたのか?非常に気になるところです。ちなみに陸上自衛隊のFatal Accident は2件(20機中の2機)で9名亡くなっています。
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MU-2擁護派のスタンス [MU-2]

米国のMU-2擁護派は、その高速性能(および経済性)をかっている一方で、MU-2がその代償として強い「癖」を持つことも、彼らの多くは認識しています。でも、彼らはその改善を機体側に求めるのではなく、そんな「癖」を持つMU-2を乗りこなすに必要な技量を、適切な「訓練」によってパイロット側が持つべきだと主張してきたようです。

米国における、MU-2懐疑派と擁護派それぞれのコメントとFAAの対応などについて纏められた記事を、以下のリンク先に紹介します。
http://www.iasa.com.au/folders/Safety_Issues/FAA_Inaction/whatswrongwithMU2.html
先に Spiral Instability (螺旋不安定)についての証言の出典として紹介したものと同じ記事です。

MU-2に「螺旋不安定」の傾向がある事を証言した米国のパイロットは、それを「癖」として認識し「訓練」によって克服できる、という擁護派でした。けれども、日本では、MU-2が企画されるよりも昔、昭和32年に発刊されたの航空工学の教科書に『飛行機は螺旋不安定であってはならない』(再掲)と明記されていたのです。

パイロットの技量を磨くことによって事故を減らすことはもちろん必要です。でも「技量」は世代が変わる毎に、あるいはシステムが変わる毎にゼロから築き直さねばなりません。当然、訓練によっても必要な「技量」レベルに到達しない人間を確実にeliminateできる体制も求められます。

MU-2が「教科書」どおりではなかったものの、開発当時の「法律」に則って世の中に出回ってしまった以上、試験結果の改ざんのような余程の落ち度がない限り、行政上はMU-2を悪者扱いすることは出来ないとは思います。

ただ、特有の「癖」を持つMU-2を『安全に乗りこなす為に欠かす事の出来ない訓練』を受ける事なく、不幸にしてFatal Accident の犠牲となった方々の無念を思えば、事故から得るべき多くの教訓を、あと200機あまりの退役してゆくMU-2に反映する事が、もはや無理としても、せめて将来の航空機に活かさねばならないと思います。

民間機に軍用機並みの「機動性」を求める必要はありません。しかし、民間機と言えども軍用機並みに「不安定」な特性を抱えるからには、OEIなども含めた外乱に対する「安定性」を確保(保証)するために、軍用機並みに「応答性」の確実な操舵システムを採用すべきです。

ちなみに、全天候を売り物にしていたMU-2は、Anti-iceシステムの不備が事故原因とされた例が多くあり、その対策としての改善処置はなされているようですが、ハードウェアとしての対策に目処があっての事だったのでしょう。

こと「安定性」に関しては、航空機の基本設計に起因する特性である事から、その改善は別の飛行機を作り直すに匹敵する事を意味し、莫大な追加コストが発生するという点は理解します。

MHIもFAAもMU-2の Fatal Accident の発生率が同クラス他機種に比べて高い事を痛感したものの、それぞれメーカーの事業採算性、擁護派オーナーの圧力に屈しての決断だったのでしょう。
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